塾長ノート

日本語のテンスとアスペクト|タ形が過去だけを表さない理由

「過去」と「完了」を分けて、日本語の時間表現を見る

次の二つの文を比べてみましょう。

昨日、本を読んだ。
宿題が終わったら、遊びに行く。

最初の文の「読んだ」は、昨日の出来事を表しています。 ところが、二つ目の「終わったら」は、これから宿題が終わる未来の場面について述べています。

どちらにもタ形が使われていますが、時間の意味は同じではありません。 日本語のタ形をすべて「過去」と説明するだけでは、この違いをうまく捉えられないのです。

ここで役立つのが、 テンスアスペクト を分けて考える見方です。

テンスは「いつ」の関係を表す

テンスとは、出来事を発話時や文中の基準となる時点との関係で位置づける仕組みです。 平たく言えば、その出来事が「いつ」のことなのかを見る考え方です。

昨日、本を読んだ。
毎朝、本を読む。
明日、本を読む。

「読んだ」は、発話時より前の出来事を表しています。 一方、「読む」は、毎朝の習慣にも、明日の予定にも使えます。

学校文法では「過去・現在・未来」と整理することがあります。 ただし、日本語の動詞には英語の will のような独立した未来形があるわけではありません。 動詞の活用としては、ル形とタ形の対立を 非過去と過去 と捉える説明がよく用いられます。

ここでいう非過去には、現在の習慣だけでなく未来も含まれます。 したがって、ル形を単純に「現在だけを表す形」と考えるのも十分ではありません。

アスペクトは出来事の内部をどう見るか

アスペクトは、出来事を進行中として見るのか、完了したものとして見るのか、 あるいは結果が残っている状態として見るのかに関係します。

テンスが出来事を時間の中に置く見方だとすれば、 アスペクトは出来事の内部の時間的なあり方を見る見方です。

太郎は今、走っている。
窓が開いている。

「走っている」は、走る動作が進行中であることを表します。 それに対して「開いている」は、窓が開く変化の途中ではなく、 開いた結果の状態が続いていることを表すのが普通です。

同じテイル形でも、進行中の動作と結果状態という異なる読み方があります。 日本語のテイル形を、いつでも英語の進行形と同じものとして扱うことはできません。

タ形が過去を表す場合

昨日、映画を見た。
子どものころ、よくこの公園で遊んだ。

これらは、主節のタ形が発話時より前の出来事を表す基本的な例です。 時を表す「昨日」や「子どものころ」とも自然に結びついています。

この用法では、「タ形は過去を表す」という学校文法の説明がよく機能します。 ただし、タ形の働きはこの用法だけではありません。 文の中でどのような構文を作っているかまで見る必要があります。

未来の文にもタ形が現れる理由

宿題が終わったら、遊びに行く。
明日、雨が降ったら、試合は中止だ。

宿題が終わることも、雨が降ることも、発話時点ではまだ起きていない可能性があります。 それでも、条件を表す「たら」の中にはタ形が現れます。

ここで大切なのは、タ形だけを切り離して過去時制と決めつけないことです。 「終わったら」は、宿題が終わるという条件が成立した段階を基準にして、 その後に遊びに行くことを述べています。

同じように「雨が降ったら」も、雨が降るという条件が成立した場合を示します。 後ろの出来事より先に条件が成立するという順序が重要です。

この意味は、タ形だけで作られているわけではありません。 テンス、出来事の成立の捉え方、そしてタラ構文の条件を作る働きが重なっています。 そのため、「タは必ず完了を表す」と言い切るのも適切ではありません。

「過去」と「完了」は同じではない

昨日、宿題が終わった。
宿題が終わったら、知らせてください。

最初の文では、宿題が終わる出来事が発話時より前に位置づけられています。 ここでは過去という時間関係が中心です。

後の文では、知らせる時点より先に宿題の終了が成立していることが重要です。 発話時より前かどうかではなく、二つの出来事の順序が解釈の中心になります。

文法の説明では、 past を「過去」、 perfective を「出来事を一まとまりとして捉える見方」、 completion を「完了」と区別することがあります。 ただし、日本語のタ形と英語の完了形が一対一で対応するわけではありません。

相対テンスとの関係

彼が来たとき、私は家にいた。

従属節では、発話時だけでなく、主節の出来事との前後関係も解釈に関わります。 この文の「来た」と「いた」を考えるときには、 二つの出来事をどの時点から見るかを確かめる必要があります。

発話時を基準にするだけでなく、主節など別の時点を基準に時制を捉える考え方が相対テンスです。 相対テンスと絶対テンスについてはarticle63が中心的に扱います。

この記事では基準点の分類そのものよりも、 ル形・タ形・テイル形が、出来事の時点と捉え方にどう関わるかを中心に考えます。

英語のテンス・アスペクトとの違い

読む。
読んだ。
読んでいる。

英語では、動詞の現在形・過去形に、完了形や進行形を組み合わせて時間表現を整理できます。 article65は、英語の過去形・現在完了・進行形などを中心に、その体系を説明する記事です。

日本語では、ル形・タ形・テイル形だけでなく、 それらが主節・従属節・条件構文のどこに現れるかによっても解釈が変わります。

日本語の「読んでいる」を英語の進行形に、 日本語の「読んだ」を英語の過去形や完了形に機械的に置き換えることはできません。 それぞれの言語で、形と文全体の働きを確かめる必要があります。

日本語の時間表現を見分ける手順

ル形・タ形・テイル形に出会ったら、次の順で確認すると整理しやすくなります。

  1. その出来事は、発話時より前・同時・後のどこにあるか
  2. その形は、主節と従属節のどちらにあるか
  3. 別の出来事との前後関係があるか
  4. 進行・完了・結果状態のどの見方が重要か
  5. タ形が「たら」など条件構文の一部になっていないか

たとえば「明日、本を読む」のル形は未来の予定を表します。 「窓が開いている」のテイル形は結果状態を表します。 「雨が降ったら」のタ形は、未来に成立し得る条件の中にあります。

形の名前だけで決めず、時間の位置、出来事の見方、文の構造を順番に確かめることが大切です。

まとめ

  • テンスは、出来事を発話時や基準時との関係で時間の中に位置づける
  • アスペクトは、出来事の進行・完了・結果状態などの捉え方に関係する
  • ル形は、現在だけでなく習慣や未来にも使われる
  • タ形は主節では過去を表すことが多いが、それだけでは説明できない
  • タラ構文では、未来に成立し得る条件にもタ形が現れる
  • テイル形は、進行中の動作と結果状態の両方を表し得る
  • 日本語の時間表現は、形だけでなく文全体の構造から判断する

「タ形だから過去」とすぐに決めるのではなく、 何を基準にした時間なのか、出来事のどの側面を見ているのかを分けて考えましょう。 そうすると、未来の条件文にタ形が現れる理由も見通しやすくなります。

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