英語を勉強していると、文法的にはそれほど難しく見えないのに、よく考えるとかなり不思議な文に出会うことがある。
たとえば、次の文である。
This problem is difficult to solve.
意味はもちろん、
この問題は解くのが難しい。
である。
中学生・高校生向けには、たいてい次のように説明されることが多いと思う。
This problem is difficult to solve.
= It is difficult to solve this problem.
これはこれで、意味を理解するには十分である。
しかし、少し文の構造を丁寧に見ると、かなり面白いことが起きている。
solve の目的語はどこにあるのか
まず、普通に考えると、solve は他動詞である。
solve the problem
のように、「何を解くのか」という目的語を必要とする。
ところが、
This problem is difficult to solve.
では、solve の後ろに目的語がない。
This problem is difficult to solve ___.
のように、solve の後ろに空き場所があるように見える。
にもかかわらず、私たちはこの文を読むと、
solve this problem
という関係を自然に読み取る。
つまり、文の表面では this problem は主語の位置にある。
This problem is difficult to solve.
しかし、意味の上では、this problem は solve の目的語である。
ここに、この構文のおもしろさがある。
主語に見えるけれど、意味の上では目的語
整理すると、こうである。
This problem is difficult to solve.
表面上の主語は、
This problem
である。
しかし、意味の上での役割は、
solve this problem の目的語
である。
つまり this problem は、
- 文全体の主語でありながら、
- solve の目的語として解釈される
という二重の顔を持っている。
このような構文が、いわゆる タフ移動 と呼ばれるものである。
英語では、典型例に tough、difficult、easy などの形容詞が出てくるため、 tough movement、または tough construction と呼ばれる。
名前は「移動」だが、単純に移動したとは限らない
ここで注意が必要である。
「タフ移動」という名前だけ聞くと、
solve this problem
の this problem が前に移動して、
This problem is difficult to solve.
になったように感じる。
たしかに、生成文法の歴史の中では、そのように目的語が主語の位置へ移動したと考える分析があった。
しかし、その後の分析では、単純に「this problem が目的語の位置から主語へ移動した」とは見ない考え方も出てくる。
たとえば、不定詞節の中に発音されない要素があり、それが主語と関係していると見る分析もある。
ここを厳密に扱うと、かなり専門的な話になる。
この記事では、細かい分析には深入りしすぎず、
表面上は主語
意味上は不定詞内の目的語
というところを押さえれば十分である。
easy to please と eager to please の違い
タフ移動を考えるときに、よく比較されるのが次の2つである。
John is easy to please.
John is eager to please.
どちらも一見すると、
John is 形容詞 to 動詞
という同じ形をしている。
しかし、この2つは同じ構造ではない。
違いを生んでいるのは、形容詞の性質である。
easy や difficult、hard のような形容詞は、 「〜するのが簡単だ」「〜するのが難しい」という評価を表す。
このタイプでは、文の主語が、後ろの to 不定詞の中にある空いた目的語の位置と結びつくことがある。
John is easy to please.
→ John is easy to please ___.
→ please John
この場合、John は文全体では主語だが、意味の上では please の目的語である。
つまり、
John is easy to please.
は、
John を喜ばせるのは簡単だ。
という意味になる。
一方で、eager は「〜したがっている」という意味を表す形容詞である。
この場合、主語の John は、to 不定詞の中の動作を行う側として解釈される。
John is eager to please.
→ John is eager [John が please する]
→ John pleases someone
つまり、John は please の主語である。
そのため、
John is eager to please.
は、
John は人を喜ばせたがっている。
という意味になる。
まとめると、こうである。
John is easy to please.
→ please John
→ John は please の目的語
John is eager to please.
→ John pleases someone
→ John は please の主語
つまり、同じ 主語 + be + 形容詞 + to 動詞 に見えても、 形容詞の種類によって、to 不定詞との関係が変わる。
easy は、主語が不定詞内の目的語として読まれるタイプである。
一方、eager は、主語が不定詞内の動作主として読まれるタイプである。
だから、表面上の形だけを見て、どちらも同じ構造だと考えると誤解してしまう。
タフ移動を理解する上では、単に語順を見るだけでなく、 その形容詞がどのような to 不定詞を取るのかを考える必要がある。
「形容詞 + to 不定詞」は一種類ではない
ここまで見ると、ひとつ大事なことがわかる。
形容詞 + to 不定詞 の形は、見た目が同じでも、すべて同じ構造ではない。
たとえば、次の2つをもう一度比べてみる。
This book is easy to read.
She is ready to read.
どちらも形だけ見れば、
主語 + be + 形容詞 + to 動詞
である。
しかし、
This book is easy to read.
→ read this book
では、this book は read の目的語である。
一方で、
She is ready to read.
→ she reads
では、she は read する側である。
つまり、形容詞によって、主語と to 不定詞の関係が違う。
この違いを意識すると、英文の読み方がかなり安定する。
日本語訳だけでは見えない構造
日本語にすると、
This problem is difficult to solve.
この問題は解くのが難しい。
なので、あまり違和感がない。
むしろ日本語では、
この問題は解くのが難しい。
のように、「この問題は」と主題として出してから、「解くのが難しい」と続けるのは自然である。
しかし英語では、This problem が文法上の主語になっている。
This problem is difficult to solve.
その一方で、solve の意味上の目的語でもある。
ここが、英語の文構造として面白いところである。
つまり、タフ移動は、日本語訳だけを見ていると見えにくい現象である。
英語の語順と意味役割を分けて考えると、急に見えてくる。
どんな形容詞で起きるのか
タフ構文は、典型的には次のような形容詞で見られる。
- easy
- difficult
- hard
- tough
- impossible
- pleasant
- interesting
- important
たとえば、
This book is easy to read.
これは、
read this book
という関係である。
This question is hard to answer.
これは、
answer this question
という関係である。
This rule is important to remember.
これは、
remember this rule
という関係である。
どれも、
主語 + be + 形容詞 + to 動詞
という形をしていて、主語が to 不定詞内の動詞の目的語として解釈されている。
ただし、すべての形容詞がこのような構造を作るわけではない。
形だけで判断するのではなく、その形容詞が主語を「される側」として読むのか、動作する側として読むのかを見る必要がある。
学習者はどう理解すればよいか
高校英文法としては、あまり「タフ移動」という名前を覚える必要はない。
むしろ大切なのは、次の感覚である。
This book is easy to read.
→ read this book
This problem is difficult to solve.
→ solve this problem
つまり、
主語が、後ろの動詞の目的語になっている
と読めれば十分である。
その一方で、
John is eager to please.
She is ready to leave.
のような文では、主語が to 不定詞の動作を行う側である。
したがって、学習者としては、
- easy / difficult / hard 型:主語が不定詞内の目的語になりやすい
- eager / ready / willing 型:主語が不定詞内の動作主になりやすい
と大きく分けておくとよい。
文法用語としては難しく見えるが、読み方としてはかなり実用的である。
書き換えで理解する
タフ構文は、次のように書き換えると理解しやすい。
This problem is difficult to solve.
= It is difficult to solve this problem.
This book is easy to read.
= It is easy to read this book.
This question is hard to answer.
= It is hard to answer this question.
ただし、すべての文で機械的に書き換えられるわけではない。
また、実際の英語では、
This book is easy to read.
と、
It is easy to read this book.
では、焦点の当たり方が少し違う。
前者は this book を先に出している。
つまり、「この本について言うと、読みやすい」という感じである。
後者は、読むという行為全体について述べている。
意味は近いが、情報の出し方が少し違うわけである。
さらに、eager 型の文はこのようには書き換えられない。
John is eager to please.
≠ It is eager to please John.
これは、John が please の目的語ではなく、please する側だからである。
この点からも、easy 型と eager 型が別の構造であることがわかる。
タフ移動は英文法の奥行きを見せてくれる
タフ移動という名前だけを見ると、かなり専門的に感じる。
しかし、見ている現象自体は、英語学習者が日常的に出会う文である。
This book is easy to read.
This problem is difficult to solve.
This question is hard to answer.
こうした文を、
主語 + be + 形容詞 + to 動詞
という表面的な形だけで見るのではなく、
read this book
solve this problem
answer this question
という意味上の関係まで見る。
そうすると、英文法は単なる形の暗記ではなくなる。
英語の文は、表面の語順と、意味の関係がいつも完全に一致しているわけではない。
タフ移動は、そのことを教えてくれる良い例である。
まとめ
タフ移動とは、簡単に言えば、
主語が、後ろの不定詞の中では目的語として解釈される構文
である。
たとえば、
This problem is difficult to solve.
では、This problem は文の主語だが、意味の上では solve の目的語である。
solve this problem
という関係があるからである。
ただし、すべての 形容詞 + to 不定詞 がタフ移動になるわけではない。
easy や difficult のような形容詞では、主語が不定詞内の目的語として読まれることがある。
一方で、eager や ready のような形容詞では、主語が不定詞内の動作主として読まれる。
だから、
John is easy to please.
→ please John
→ John は目的語
John is eager to please.
→ John pleases someone
→ John は主語
という違いが生まれる。
「タフ移動」という名前を覚えることが目的ではない。
大切なのは、
表面上の主語と、意味上の役割はずれることがある
と知ることである。
そこに、英文法のおもしろさがある。