塾長ノート

spray paint on the wall と spray the wall with paint は何が違うのか

同じ出来事でも、目的語が変われば見え方が変わる

英語には、 日本語に訳すとほとんど同じに見えるのに、 語順を変えることで、 出来事の見え方が少し変わる文がある。

たとえば、次の二文を見てみよう。

Max sprayed paint on the wall.
マックスは壁にペンキを吹きつけた。
Max sprayed the wall with paint.
マックスは壁にペンキを吹きつけた。

日本語訳だけを見ると、 二つの文はほぼ同じである。

しかし、英語では、 動詞 spray の直後に置かれている語が違う。

sprayed paint on the wall
sprayed the wall with paint

一文目で目的語になっているのは、 paint である。

二文目で目的語になっているのは、 the wall である。

これは、単に同じことを別の語順で言っているだけなのだろうか。

実は、 目的語に何を置くかによって、 話し手が出来事のどの部分を中心に描いているかが変わる。

同じ出来事でも、目的語に置くものが違う

spray は、 ペンキや水などを、 ある場所へ吹きつけることを表す動詞である。

そのため、 次のように、 吹きつける物を目的語に置くことができる。

spray paint on the wall
壁にペンキを吹きつける

という順序になっている。

一方で、 spray は、 吹きつけられる場所を目的語に置くこともできる。

spray the wall with paint
壁にペンキを吹きつける

という順序になる。

文法では、 このように、 場所を表す部分と物を表す部分の配置が交代する構文を、 所格交代構文 と呼ぶことがある。

ただし、 大切なのは名前を覚えることではない。

注目したいのは、 同じ出来事について話していても、 目的語に何を置くかによって、 英語は別の見方を示すことができるという点である。

spray paint on the wall は、ペンキの動きを描く

まず、 次の文を考えてみよう。

Max sprayed paint on the wall.

この文で、 動詞 sprayed の直後に置かれているのは、 paint である。

つまり、 文の中心には、

マックスが何を吹きつけたのか
→ paint

が置かれている。

そして、 そのペンキがどこへ向かったのかを、

on the wall
壁に

が示している。

この文は、 ペンキが壁へ吹きつけられたことを述べているが、 壁全体がどのような状態になったのかまでは、 強く述べていない。

たとえば、 色を試すために壁の一部へ少しだけペンキを吹きつけた場面でも、 この形は自然に使える。

Max sprayed some paint on the wall to test the color.
マックスは色を試すために、壁へ少しペンキを吹きつけた。

という見方になる。

spray the wall with paint は、壁が影響を受けることを描く

次に、 もう一つの文を見てみよう。

Max sprayed the wall with paint.

この文では、 動詞 sprayed の直後に、 the wall が置かれている。

つまり、 文の中心には、

マックスが何に働きかけたのか
→ the wall

が置かれている。

そして、 壁に何を使ったのかを、

with paint
ペンキで

が示している。

この形では、 ペンキの移動よりも、 壁がペンキによって変化を受けること が前面に出る。

そのため、 壁のかなりの部分にペンキが施され、 壁が塗られた状態になるという解釈を受けやすい。

文法の説明では、 このように場所を表す語が目的語になるとき、 その場所全体が影響を受けたように読まれやすいことを、 全体的解釈 と呼ぶことがある。

もちろん、 壁のどの程度が塗られたかは文脈によるが、 壁を影響を受ける対象として描く点が重要である。

ただし、 the wall を目的語に置いた時点で、 話し手は壁を、 ペンキによって影響を受ける対象として描いている。

同じような違いは、 load にも見られる。

They loaded boxes onto the truck.
彼らは箱をトラックに積んだ。
They loaded the truck with boxes.
彼らはトラックに箱を積み込んだ。

一文目では、 箱がトラックへ運ばれることが中心になる。

二文目では、 トラックが箱で積まれた状態になることが中心になる。

このように、 目的語を変えることは、 ただ語順を変えることではなく、 出来事の中で何が強く影響を受けたのかを示すことでもある。

目的語を選ぶことは、出来事の見方を選ぶこと

英作文では、 日本語の語順をそのまま英語に移すだけでなく、 自分が何を中心に述べたいのかを考えることが大切である。

たとえば、 「壁に少しペンキを吹きつけて色を確認した」と言いたいなら、

I sprayed some paint on the wall to check the color.

のように、 paint を中心に置く形が使いやすい。

一方、 「壁をペンキで塗った」と、 壁の変化を述べたいなら、

I sprayed the wall with paint.

のように、 the wall を目的語に置く形が考えやすい。

ここで重要なのは、 どちらが正しいかを一つだけ選ぶことではない。

同じ出来事でも、

paint を目的語にする:吹きつける物の動きを中心に描く
the wall を目的語にする:影響を受ける場所を中心に描く

という選択ができるのである。

put が場所の情報を必要としたのに対し、 spray では二つの形が成立し、 どちらを選ぶかで出来事の切り取り方が変わる。

文型や語順は、 単に S や V や O の記号を振るためだけにあるのではない。

何を目的語として前に出し、 何を前置詞句として添えるのかを見ることで、 話し手が世界のどこに焦点を当てているのかが見えてくる。

まとめると、

Max sprayed paint on the wall.
→ ペンキを壁へ吹きつけた動作を中心に描く
Max sprayed the wall with paint.
→ ペンキによって変化を受ける壁を中心に描く

日本語では同じように訳せる二文でも、 英語では、 目的語の選び方によって、 同じ出来事に別の輪郭を与えることができる。

英文法を学ぶことは、 決まった型をただ暗記することではない。

どの語がどの位置に置かれ、 その結果として、 何が中心に見えるのかを考えることでもある。

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