塾長ノート

This book sells well. はなぜ受け身ではないのか

形は能動態でも、主語の性質を述べる文がある

sell という動詞を習うとき、 まず覚える意味は、

sell:売る

である。

たとえば、

This bookstore sells English books.
この本屋は英語の本を売っています。

なら、 this bookstore が売る側で、 English books が売られる物である。

ところが、英語には、 次のような文がある。

This book sells well.
この本はよく売れます。

この文では、 主語は this book である。

しかし、本が自分で何かを「売る」わけではない。

日本語にすると、

この本はよく売れる

となる。

「売られるもの」が主語なのに、 英語では受け身の形になっていない。

では、 This book sells well. は、 どのように考えればよいのだろうか。

sell は「売る」だけではなく「売れる」と使える

sell は、 典型的には、 「人や店が、物を売る」という形で使われる。

The shop sells this bag.
その店はこのバッグを売っています。
The publisher sells this book online.
その出版社はこの本をオンラインで販売しています。

この場合、 主語は販売する側である。

一方、 sell は、 売られる物を主語にして、 「売れる」「売れ行きがよい」という意味でも使える。

This book sells well.
この本はよく売れます。
These tickets sold quickly.
これらのチケットはすぐに売れました。

ここで述べているのは、 「誰がその本を売っているか」ではない。

その本が、

よく売れるのか
すぐ売れるのか
あまり売れないのか

という、 商品としての売れ方である。

英語では、 このように、 本来は何かの働きかけを受ける側のものを主語に置き、 その物の性質や扱われ方を述べる文がある。

This book sells well. のような形は、 文法研究では、 中間構文中間態 と呼ばれることがある。

名前は少し難しいが、 まずは、

「売る」と覚えた sell が、
物を主語にすると「売れる」と使えることがある

と理解できればよい。

受け身ではなく、その本の「売れ方」を述べている

「この本は売れる」と言いたいなら、 「売られる」という意味だから、 受け身にすればよいのではないかと思うかもしれない。

しかし、 次の二つは同じことを表す文ではない。

This book is sold in many countries.
この本は多くの国で販売されています。
This book sells well in many countries.
この本は多くの国でよく売れています。

is sold は受け身であり、 「その本が販売されている」という事実を述べている。

どこで取り扱われているか、 誰かによって販売されているか、 という方向に意識が向きやすい。

一方、 sells well は、 その本の売れ行きを述べている。

本屋や出版社の行為というより、 その本はよく売れる商品である という見方である。

is sold:販売されているという事実
sells well:よく売れるという売れ行き・性質

この違いは、 英作文でも大切である。

たとえば、

この本は全国の書店で販売されています。

なら、

This book is sold at bookstores throughout Japan.

のように、 受け身が使いやすい。

しかし、

この本は中学生によく売れています。

と、売れ行きを言いたいなら、

This book sells well among junior high school students.

のように表せる。

日本語では、 どちらも「売れる」「売られている」に近く見えるが、 英語では、 何を伝えたいかによって形が変わるのである。

似た形は sell だけではない

このような形は、 sell だけに見られるものではない。

たとえば、

This door opens easily.
このドアは簡単に開きます。

ドアが自分で意志を持って開くという話ではない。

誰かが開けようとしたときに、 簡単に開けられるドアである、 という性質を述べている。

This pen writes smoothly.
このペンはなめらかに書けます。

ペンが自分で文章を書くわけではない。

人がそのペンを使ったときに、 なめらかに書ける、 という使い心地を述べている。

これらの文では、 主語になっている物が、 行為を行う人ではない。

それでも英語では、 能動態の形を使って、 その物の使いやすさや性質を表すことができる。

This book sells well.
この本はよく売れる。
This door opens easily.
このドアは簡単に開く。
This pen writes smoothly.
このペンはなめらかに書ける。

と並べてみると、 英語では、 「物がどのように扱えるか」を、 能動態の形で述べることがあると分かる。

ただし、 どんな動詞でも自由に同じ形を作れるわけではない。

まずは、 sell wellopen easilywrite smoothly のように、 実際によく使われるまとまりで理解しておくのがよい。

まとめ

This book sells well. は、 形だけを見ると能動態である。

しかし、その意味は、

この本はよく売れる

であり、 本が誰かに何かを売るという意味ではない。

sell は、 「売る」だけでなく、 売られる物を主語にして 「売れる」「売れ行きがよい」と使えることがある。

This book is sold in many countries.
この本は多くの国で販売されている。
This book sells well in many countries.
この本は多くの国でよく売れる。

受け身は、 販売されているという事実を表しやすい。

一方、 sells well は、 その本の売れ行きや商品としての性質を表している。

英語の文を読むとき、 能動態だから必ず「主語が自分でその行為をする」と考えると、 このような文でつまずいてしまう。

文の形だけでなく、 その文が主語について何を述べているのか を見ることが大切である。

This book sells well. は、 能動態と受け身の単純な対応だけでは見えにくい、 英語のものの捉え方を示す文なのである。

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