前回の記事では、good の比較級・最上級が、
good → better → best
になる理由を扱った。
では、反対の意味をもつ bad はどうだろうか。
普通に考えると、
bad → badder → baddest
になりそうである。
しかし、現代英語の標準的な形は、
bad → worse → worst
である。
good が better / best になるのと同じように、bad もかなり不規則である。
なぜ bad の比較級・最上級は、badder / baddest ではなく worse / worst なのだろうか。
現代英語では bad - worse - worst が標準形
まず、現代英語の使い方としては、bad の比較級・最上級は次の形になる。
bad
worse
worst
たとえば、
This is bad.
This is worse.
This is the worst.
のように使う。
意味としては、
bad:悪い
worse:より悪い
worst:もっとも悪い
である。
学校英語では、これは「不規則変化」として覚えることが多い。
もちろん、テストではまず、
bad - worse - worst
と覚える必要がある。
ただ、形をよく見ると、かなり不思議である。
worse / worst の中には、bad という形が残っていない。
worse / worst は bad + er / est ではない
もし bad から規則的に比較級・最上級を作るなら、
bad + er → badder
bad + est → baddest
となるはずである。
実際、英語には、語尾の子音を重ねて -er / -est をつける形がある。
big → bigger → biggest
hot → hotter → hottest
sad → sadder → saddest
だから、形だけを見れば、
bad → badder → baddest
という形も、英語のルールからまったく考えられないわけではない。
しかし、標準的な現代英語では、badder / baddest は普通の比較級・最上級としては使わない。
通常は、
bad → worse → worst
である。
つまり、worse / worst は、bad に -er / -est をつけた形ではない。
別の古い形が、bad の比較級・最上級として使われるようになったと考える必要がある。
worse / worst はもともと bad だけの形ではなかった
worse / worst の背景には、古い英語の形が関係している。
重要なのは、worse / worst が、もともと現代英語の bad だけから作られた形ではないということである。
古い英語では、現代の bad に近い意味を表す語として、 evil や ill にあたる語も重要な役割をもっていた。
そして、worse / worst につながる形は、そうした「悪い」「不快な」「よくない」という意味の語と結びつきながら使われていた。
その後、bad が現代英語で広く使われるようになる中で、
bad の比較級:worse
bad の最上級:worst
というセットが定着していった。
つまり、worse / worst は、もともと bad の中から素直に生まれた形というより、 すでにあった古い比較形が、bad の比較級・最上級として使われるようになったものと見ると分かりやすい。
これも補充法の一種として見られる
ここで関係するのが、前の記事でも扱った 補充法 である。
補充法とは、ある語の活用に、別系統の形が入り込んでいるような現象である。
たとえば、
go → went
は、補充法の代表例である。
went は、go に規則的な過去形の語尾をつけた形ではない。
もともと別の動詞に関係する形が、go の過去形として使われるようになった。
good / better / best も、これに近い。
good → better → best
というセットでは、better / best が good からそのまま作られているわけではない。
bad / worse / worst も同じように、
bad → worse → worst
という1つのセットの中に、別系統の古い形が入り込んでいる。
そのため、bad - worse - worst も補充法の例として整理できる。
badder / baddest がまったく存在しないわけではない
ただし、ここで少し注意が必要である。
badder や baddest という形が、英語にまったく存在しないわけではない。
歴史的には、badder / baddest のような形が使われた時期もある。
また、現代英語でも、冗談や強調、くだけた表現、あえて崩した言い方として見かけることがある。
たとえば、音楽やスラング的な文脈では、baddest が「最も悪い」というより、 「最高にかっこいい」「とびきり強い」のような肯定的な意味で使われることもある。
ただし、これは通常の英文法でいう、
bad の比較級・最上級
とは分けて考えた方がよい。
標準的な英語の比較表現としては、
bad - worse - worst
を使う。
基本語ほど不規則な形を残しやすい
ここでも、前回の記事と同じことが言える。
基本語ほど、不規則な形を残しやすい。
bad は、日常的によく使う語である。
そして、worse / worst も非常によく使う。
The weather is getting worse.
This is the worst day ever.
このような表現は、日常会話でもよく出てくる。
よく使われる形は、多少不規則でも覚えられ、使われ続ける。
逆に、あまり使われない語であれば、規則的な形にそろえられやすい。
しかし、bad / worse / worst のような基本語は、古い不規則な形を保ったまま残りやすい。
だから、英語の不規則変化は、やみくもな例外というより、 頻度の高い語に残った歴史の跡として見ることができる。
good / better / best とセットで見ると分かりやすい
bad / worse / worst は、good / better / best とセットで見ると分かりやすい。
good → better → best
bad → worse → worst
どちらも、原級と比較級・最上級の形が大きく違う。
そして、どちらも非常によく使われる基本語である。
「よい」「悪い」は、人間がものごとを評価するときのかなり基本的なことばである。
だからこそ、古い形が残り、規則的な形に完全にはそろわなかったとも考えられる。
英語を学ぶときには、
good - better - best
bad - worse - worst
をただ丸暗記するだけでも、もちろん問題はない。
しかし、少し深く見ると、ここには英語の歴史が残っている。
不規則な形は、英語の「バグ」ではない。
古い形が、よく使われる語の中に残ったものなのである。
まとめ
bad の比較級・最上級は、
bad → worse → worst
である。
標準的な現代英語では、普通は badder / baddest とは言わない。
worse / worst は、bad にそのまま -er / -est をつけた形ではない。
もともと「悪い」「よくない」という意味に関わる古い比較形があり、 それが bad の比較級・最上級として定着したものと見ると分かりやすい。
このように、別系統の形が1つの活用セットに入り込む現象を 補充法 という。
bad - worse - worst は、good - better - best と並んで、 英語の基本語に残った補充法の例である。
英語の不規則変化は、ただの例外ではない。
そこには、古い語形や、よく使われることばが形を残してきた歴史がある。
worse / worst は、そのことを分かりやすく見せてくれる形である。