中学校で、
There is a cat in the room.
部屋に猫がいます。
という文を習う。
この文を見たとき、 最初の there を、 「そこに」という場所の意味で捉えている人は多いかもしれない。
しかし、 この文で「部屋に」という場所を表しているのは、
in the room
の部分である。
文頭の there は、 「そこに」という具体的な場所を示しているわけではない。
では、There is ... の there は、 何をしているのだろうか。
その答えを考えるには、 次の二つの文を比べると分かりやすい。
There is a cat in the room.
部屋に猫がいる。
The cat is in the room.
その猫は部屋にいる。
二つの文は、 どちらも「猫」と「部屋」の関係を述べている。
しかし、 英語の中で果たしている役割は同じではない。
There is a cat in the room. は、 会話の中にまだ登場していない猫を、 新しく示すための文である。
一方、 The cat is in the room. は、 すでに話題になっている猫について、 その居場所を説明する文である。
There is ... は、 単に「〜がある」と訳して終わる形ではない。
それは、 新しい存在を会話の場に登場させるための形 なのである。
There is ... の there は、場所を表す there ではない
英語には、 本当に「そこに」という場所を表す there もある。
The cat is there.
その猫はそこにいます。
この文の there は、 場所を指している。
「どこにいるの?」と聞かれて、 「そこにいる」と答えるときの there である。
しかし、
There is a cat in the room.
の文頭の there は、 具体的な場所を指していない。
実際、次のように、 二種類の there を一つの文に入れることもできる。
There is a cat there.
そこに猫がいます。
この文では、 最初の There は、 「猫がいる」という存在を提示するための形の一部であり、 最後の there が「そこに」という場所を表す。
There is a cat there.
提示の there 場所の there
日本語にすると、 どちらも「そこに」や「いる」という表現の中に溶け込んでしまうため、 違いが見えにくい。
けれども英語では、 文頭の there は、 場所を指すためではなく、 これから新しい存在を示します という形を作るために置かれている。
There is a cat. は、猫を初めて登場させる
たとえば、 部屋の中を見て、 そこに猫がいることに初めて気づいたとする。
そのときは、
There is a cat in the room.
部屋に猫がいるよ。
と言える。
この時点では、 聞き手にとって、 どの猫なのかはまだ分からない。
そこで、 猫を表す名詞には、
a cat
が使われる。
a cat は、 「ある一匹の猫」「まだ特定されていない猫」を表す。
つまり、
There is a cat in the room.
は、 まず「猫」という新しい存在を、 話の中に持ち込む文なのである。
たとえば、 次のような流れなら自然である。
There is a cat in the room.
It is sleeping under the table.
部屋に猫がいる。テーブルの下で眠っている。
最初の文で a cat が登場し、 次の文では、 すでに登場した猫を it で受けている。
会話や文章は、 このように、 新しく出す情報 と すでに共有された情報 をつなぎながら進んでいく。
The cat is in the room. は、すでにいる猫について話す
一方、
The cat is in the room.
と言うときは、 話し手と聞き手のあいだで、 どの猫について話しているのかが分かっていることが基本になる。
たとえば、
Where is the cat?
The cat is in the room.
猫はどこ?
その猫は部屋にいるよ。
という流れである。
ここでは、 「猫が存在する」ということを初めて知らせているのではない。
すでに話題になっている猫について、 「部屋にいる」という情報を加えている。
There is a cat in the room.
→ 猫がいることを新しく示す
The cat is in the room.
→ その猫の居場所を述べる
同じような日本語訳になる場面があっても、 英語では、 何を新しく伝えたいのか によって文の形が変わる。
There is the cat in the room. はなぜふつう不自然なのか
ここで、 次のように思うかもしれない。
There is a cat in the room.
の a cat を the cat に変えて、
There is the cat in the room.
と言えばよいのではないか。
しかし、 通常の文脈では、
There is the cat in the room.
は不自然に感じられる。
なぜなら、 There is ... は、 新しい存在を会話に導入するのに向いた形だからである。
それに対して、 the cat は、 「どの猫か分かっている」という前提を持つ。
a cat:これから登場させる猫
the cat:すでに特定できる猫
新しい存在を導入するための形に、 すでに特定されているものをそのまま置くと、 情報の出し方がかみ合いにくくなる。
したがって、 すでに話題になっている猫の場所を説明したいなら、
The cat is in the room.
とするのが基本である。
ただし、there のあとに固有名詞や the が絶対に来ないわけではない
ここは、 英文法を丁寧に見るうえで大切なところである。
There is ... のあとには、 基本的に a cat のような、 新しく提示する名詞が来やすい。
しかし、 the がついた名詞や人名が、 どんな場合にも絶対に置けないわけではない。
たとえば、 誰をメンバーにできるか考えながら、
Well, there's Ken, and Mika, and Sota.
そうだね、健と、美香と、壮太がいるね。
のように、 候補を一人ずつリストとして出していくことがある。
Ken という人自体は、 聞き手がすでに知っている人物かもしれない。
それでも、 「候補として誰がいるか」という流れでは、 Ken が候補としてここに登場すること が新しい情報になる。
つまり、 大切なのは、 名詞に a がついているか、 the がついているかだけではない。
その文が、 会話の中で何を新しく提示しているのかを見る必要がある。
There is ... は「存在」を述べるだけでなく、話を始める
There is ... は、 日本語では「〜がある」「〜がいる」と訳されることが多い。
もちろん、 それは意味を理解するための基本として正しい。
しかし、 実際の英文の流れを見ると、 There is ... は、 単に存在を述べるだけではなく、 そこから話を始める働きを持っている。
There is a problem with this plan.
この計画には問題があります。
There is a student who wants to talk to you.
あなたと話したい生徒がいます。
There is something I need to tell you.
あなたに伝えなければならないことがあります。
これらの文は、 「問題」「生徒」「伝えるべきこと」を、 これから話題にするために提示している。
たとえば、
There is a problem with this plan.
It will cost too much.
この計画には問題があります。費用がかかりすぎます。
では、 最初の文で a problem を登場させ、 次の文でその問題の内容を説明している。
There is ... を使えるようになると、 英作文でも、 いきなり説明を始めるのではなく、 まず話題を自然に提示してから詳しく述べることができる。
「が」と「は」に少し似ているが、完全に同じではない
日本語で考えると、 この違いは、 「が」と「は」の違いに少し似ている。
部屋に猫がいる。
その猫は窓のそばで眠っている。
最初の文では、 猫が新しく登場する。
次の文では、 すでに登場した猫を話題にして、 その様子を説明する。
英語でも、
There is a cat in the room.
The cat is sleeping by the window.
部屋に猫がいる。その猫は窓のそばで眠っている。
のように、 新しい存在を出したあと、 それを話題として説明していく流れが作れる。
ただし、 英語の There is ... と、 日本語の「が」が、 いつでも一対一で対応するわけではない。
重要なのは、 両者を同じ文法だと考えることではなく、 新しいものを提示する文 と すでに話題になっているものについて述べる文 という違いを見られるようになることである。
この点については、 「新情報と旧情報とは」や 「情報構造から見る『は』と『が』」でも扱っている。
今回の There is ... は、 その英語側の具体的な形として読むことができる。
There is と There are の使い分け
There is ... の基本は、 後ろに来るものが一つ、または数えない名詞である場合に使うことである。
There is a cat in the room.
部屋に猫が一匹います。
There is some milk in the fridge.
冷蔵庫に牛乳があります。
一方、 複数のものを提示するなら、 基本的には There are ... を使う。
There are three cats in the room.
部屋に猫が三匹います。
There are some books on the desk.
机の上に本が何冊かあります。
ここでも、 大切なのは単なる訳ではない。
a cat や three cats、 some books を、 これから話に登場させるために、 There is / There are ... を使っているのである。
英作文での使い方
英作文では、 日本語の「〜がある」「〜がいる」を見ると、 すぐに There is / There are ... を使いたくなる。
しかし、 まず考えるべきなのは、 その名詞が新しく登場するものなのか、 すでに話題になっているものなのかである。
たとえば、
公園に大きな木があります。
と、 木を初めて紹介するのであれば、
There is a big tree in the park.
が使いやすい。
しかし、
その木は公園の中央にあります。
のように、 すでに話題にした木の場所を説明するなら、
The tree is in the center of the park.
とする方が自然である。
There is a big tree in the park.
The tree is very old.
公園に大きな木があります。その木はとても古いです。
このように、 There is ... は話題の入口を作り、 The ... を主語にした文は、 その話題を先へ進める。
英作文でこの流れを意識できると、 一文ずつ文法的に正しいだけでなく、 文章全体が自然につながるようになる。
there 構文を学ぶと、文型の見え方が変わる
ここまで見てきたように、 There is ... は、 ただ「〜があります」と訳すための定型表現ではない。
文の中で、 何を最初に置き、 何を新しい情報として提示し、 何をすでに知られている話題として扱うのか。
There is ... には、 そうした英語の情報の組み立て方が表れている。
これまで、 put の記事では、 動詞が目的語のあとに場所の情報まで必要とすることを見た。
また、 fond の記事では、 形容詞にも意味を完成させるために必要な相手があることを見た。
今回の There is ... では、 英文の形は、 単語の意味だけでなく、 情報をどの順序で相手に渡すか によっても選ばれることが見えてくる。
英文法を深く見るとは、 正解の形を暗記することではない。
なぜその形が選ばれるのかを考え、 自分でも同じ考え方で文を組み立てられるようにすることである。
よく使う形で覚える
There is / There are ... は、 次の形で整理しておくと使いやすい。
There is a cat in the room.
部屋に猫がいます。
There are three cats in the room.
部屋に猫が三匹います。
There is a problem with this plan.
この計画には問題があります。
There is something I need to tell you.
あなたに伝えなければならないことがあります。
The cat is in the room.
その猫は部屋にいます。
There is a cat there.
そこに猫がいます。
※文頭の There は提示の形、文末の there は場所を表す。
新しく何かを登場させるなら、 There is / There are ...。
すでに話題になっているものについて説明するなら、 The ... is ...。
この違いを押さえておくと、 there 構文を単なる丸暗記ではなく、 英語の情報の出し方として使えるようになる。
まとめ
There is a cat in the room. の文頭の there は、 「そこに」という具体的な場所を表しているわけではない。
この there は、 新しい存在を会話の中に登場させるための there構文 を作っている。
There is a cat in the room.
→ 部屋に猫がいることを新しく示す
The cat is in the room.
→ すでに話題になっている猫の場所を述べる
そのため、 新しく紹介するものには a cat のような形が自然であり、 すでに特定できる the cat について述べるなら、 The cat is ... という形が基本になる。
ただし、 リストとして候補を示す場合など、 人名や定まった名詞を新しい項目として提示するときには、 there 構文に現れることもある。
英語では、 文の形が、 何を話題にし、 何を新しく相手に伝えるのかによって変わる。
There is ... を理解することは、 「〜がある」という訳を覚えることではなく、 新しいものを会話の舞台に置く英語の仕組み を理解することである。