ポケモンの「さきおくり」は、英語で Quash。日本語からは予定をあとへ回すdelayやpostponeを思い浮かべやすいが、quashの中心は「強く抑え込む」「決定を取り消す」である。
さきおくり → Quash
ゲームでも対象を次のターンへ延期するわけではない。対象がまだ動いていなければ、そのターンの残りの行動順で最後にする。日本語名は結果として順番が後ろへ回ること、英語名は相手の行動を抑え込む働きを捉えやすい。
quashは「強く抑え込む」
quashは他動詞で、好ましくない動きや話を力強く止めるときに使う。単に時間を遅くするのではなく、広がりや継続を断つような強さがある。
The company moved quickly to quash the rumour.
→ 会社はそのうわさをすぐに打ち消そうと動きました。
The authorities quashed the revolt.
→ 当局は反乱を鎮圧しました。
quash a rumourは、うわさを「後日に回す」のではなく、広がらないように打ち消すこと。quash a revoltも、反乱を遅らせるというより鎮圧して終わらせることを表す。
法律では「決定を無効にする」
quashには、判決や命令などを正式に取り消し、法的に効力がないものとする用法もある。
The court quashed the conviction.
→ 裁判所はその有罪判決を破棄しました。
ここでも予定の先送りではない。すでに出された決定を、そのまま通用しない状態にする。日常の基本語というより、報道や法律の文脈でも見かける、やや硬い語である。
delayは「予定より遅らせる」
delayは、出来事を予定や予想より遅くすること。動詞にも名詞にもなり、交通、作業、判断など幅広い場面で使う。
Heavy snow delayed the train.
→ 大雪で列車が遅れました。
We delayed making a decision.
→ 私たちは決定を先延ばしにしました。
delayは「あとで起こる」「待ち時間が生じる」ことに焦点がある。対象を止め切るquashとは違い、遅れたあとに実行される余地が残る。
postponeは「予定をあとへ組み直す」
postponeは、行事や計画をいったん予定していた時点から、別の遅い時点へ移すこと。意図的な日程変更を表しやすい。
We postponed the meeting until Friday.
→ 私たちは会議を金曜日まで延期しました。
delayは原因が雪や渋滞でもよく、単に遅れが生じる場合にも使える。postponeは「あとで行う」と決めて、会議や旅行などを先へ移す場面に合いやすい。ただし実際の用法には重なりもある。
suppressは「表に出ないよう抑える」
suppressは、活動を力で終わらせたり、情報や感情が表へ出ないよう抑えたりする語である。
The government tried to suppress the information.
→ 政府はその情報を隠そうとしました。
She tried to suppress a smile.
→ 彼女は笑みをこらえようとしました。
反乱を鎮圧する意味ではquashとsuppressが近づく。suppressは情報、感情、機能などを抑えて表出や働きを防ぐ範囲が広い。quashは、うわさや反対運動を強く終わらせたり、決定を正式に無効にしたりする響きを持ちやすい。
4語の違いを整理する
quash → 動きや話を強く抑え込む/決定を正式に取り消す
delay → 予定・予想より遅らせる、遅れ
postpone → 行事や計画をあとで行うよう予定変更する
suppress → 活動を鎮圧する/情報・感情・働きが表に出ないよう抑える
「さきおくり」の普通の英訳を考えるなら、文脈によってdelayやpostponeが自然になる。quashを「延期する」の同義語として置き換えることはできない。
Let's postpone the meeting.
→ 会議を延期しましょう。
Let's quash the meeting. ×
会議の日程を後ろへ移すならpostponeを使う。quashは会議の予定変更を表す語ではない。
ゲームではダメージを与えない変化技
現在のメインシリーズの「さきおくり」は、あくタイプの変化技。威力はなく、ダメージを与えない。命中率は100、技自体の優先度は0である。
対象は隣接するポケモン1体。そのターンにまだ行動していなければ、対象が選んだ技の優先度や本来の素早さ順にかかわらず、残っている行動の最後に移す。
「次のターンへ延期」ではない
次のターンまで行動させない → しない
素早さを下げる → しない
対象の技の優先度を変更する → しない
現在ターンの行動位置 → 残りの最後へ移す
対象は同じターンのうちに行動できる。次のターンへ持ち越したり、選んだ技を取り消したりする効果ではない。能力段階も変わらないため、次のターンの素早さ順まで遅くなるわけでもない。
優先度を無視して最後へ回す
対象が先制技を選んでいても、「さきおくり」が先に成功すれば、その行動は現在ターンの最後へ移る。ここで変わるのは実際の行動位置で、対象が選んだ技の優先度そのものを書き換えるわけではない。
一方、「さきおくり」自体は優先度0。使用者が動く前に対象がすでに行動してしまえば間に合わず、技は失敗する。まず使用者が対象より先に動ける状況が必要になる。
防がれる場合と順番を動かす別の技
「まもる」などの防御技で遮られる。対象がそのターンにすでに行動済みの場合も失敗する。単に「相手なら必ず最後にできる」技ではない。
また、「おさきにどうぞ」が対象を使用者の直後に動かすと、「さきおくり」で最後へ回した効果より新しい行動順が優先される。どちらも素早さの能力段階を変えず、そのターンの行動位置へ直接働きかける技である。
複数の対象が影響を受けたときの世代差
「さきおくり」は第5世代から登場した。1ターン内で複数のポケモンがこの技を受けた場合、第5〜第7世代では技を受けた順に行動した。第8世代以降は、その対象同士では通常の行動順に従う。
通常の1対1では表れにくい違いだが、古い世代の説明を現在の仕様と混ぜないために押さえておきたい。
日本語名は「順番」、英語名は「抑制」
日本語の「先送り」は、問題への対応や予定をあとへ回す一般語である。技名では、対象の行動順が現在ターンの後ろへ送られる結果が見えやすい。
英語のQuashは、延期よりも「相手の動きを強く抑え込む」側に焦点がある。対象が行おうとしていたことを一時的に押さえ、残りの全員より後ろへ回す技の働きと重なる。
さきおくり → 行動する順番が後ろになる結果
Quash → 相手の動きを強く抑える働き
日英が辞書の同義語になっているわけではない。技の効果を別の角度から表していると考えると理解しやすい。これは語義とゲーム内の働きを比べた考察であり、名前が決められた過程そのものを示すものではない。
まとめ
quashは「強く抑え込む」「決定を正式に取り消す」という他動詞。delayやpostponeのように、出来事をあとへ回すこと自体を表す語ではない。
quash a rumour → うわさを打ち消す
delay the train → 列車を遅らせる
postpone the meeting → 会議を延期する
suppress a smile → 笑みをこらえる
ゲームの「さきおくり」は、対象を次のターンへ延期する技ではない。そのターンにまだ動いていない相手を、現在ターンの残りの行動の最後へ移す。
日本語は「後ろへ回る順番」、英語は「動きを抑え込む力」を見せる。同じ技を二つの角度から見ることで、quashと「先送り」が同じ意味ではないことまで学べる。